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2017年11月20日更新
皆さんは「日本のワインアロマホイール」を見て、どのように感じたでしょうか? 「数が多い」、「割と少ない」、「知っている香りが多い」、「嗅いだことがないものが結構ある」などなど、いろいろな感想をお持ちだと思いますが、今回はこのアロマホイールについてのコラムです。
「日本のワインアロマホイール」には、中心円の大分類が12、その外側の中分類が24、より具体的な小分類には120の言葉があります。この120は、食べ物87個(73.5%)と、食べ物以外33個(27.5%)の言葉でできています。
ほとんどが、食べ物の香りです。
ワインの香りだから、食べ物が多くなるのは当然、とも思えますが、香る植物をまとめた植物図鑑『英国王立園芸協会 香り植物図鑑』(スティーブン・レイシー著/アンドリュー・ローソン写真/小泉祐貴子訳 柊風舎)によれば、
「香りの多くは口をとおして感じられるため、(中略)香りを記述するときの多くの言葉は食べ物に関連したものである」
とあり、香りを食べ物に例えるのは、どうもワインに限ったことではないようです。
さて、アロマホイールを作成するにあたって、まずは日本語のワインの香りを表現する言葉を集めることからスタートしたのですが、興味深かったのは、「異なる状態」を表す言葉が、特にたくさん集まった果物です。例えば、実物のレモンには、いろいろな香りがあります。皮の部分、実の部分でも香りは違い、新鮮なもの、より熟したものでも異なります。コンポート、ジャム、ドライフルーツと、加工によっても変わります。「日本のワインアロマホイール」では、これらを総称して「レモン」としています(「柑橘の皮」や「ドライプルーン」などの一部の例外を除く)。言葉を集める最初の段階では、そうした状態の違いを表すものも数多く集まったのですが、なかでもリンゴはバリエーションが多く、「青リンゴ、黄リンゴ、赤いリンゴ、リンゴの種、リンゴの蜜、酸化したリンゴ、変色したリンゴ、焼きリンゴ、コンポートのリンゴ、リンゴジャム、リンゴのキャンディ、リンゴ酢、リンゴの花」というように、果皮の色の違いから、酸化や加熱したもの、花まで揃いました。
またバナナも、「青いバナナ、バナナの黒いところ、熟したバナナ、腐ったバナナ、ドライフルーツのバナナ、バナナのキャンディ」と、さまざまな状態の言葉が集まりました。一方で、赤ワインの香りの表現で一般的によく使用されるカシスやブラックベリーは、果実そのもの以外の言葉はリキュールとカシスの芽だけでした。
総務省統計局の家計調査(2011〜2013年平均)を見ると、日本でもっとも消費されている果物(g)は、1位がバナナ、2位がみかん、3位がリンゴなので、そのあたりも影響しているのではないかなと思わせる結果でした(ちなみにみかんは、「みかん」以外に、「乾燥させたみかんの皮」、「みかんの花」などの言葉が集まりました)。やはり香りを記憶するには、食べ慣れることが重要なように思えます。
そして書籍に掲載するため、アロマホイールに選ばれた香りの実物を集め始めたわけですが、「最近はいつでも何でも売っていて、旬が感じられなくなりましたね」なんてよく聞く話を、何となく刷り込まれていました。しかし実際のところ、結構あります、旬。果物は時期じゃないとなかなか買えません。アロマホイールの言葉のなかで、食品・非食品合わせて、通年手に入るものは87個で約7割。あとは、春頃が15個、夏頃が8個、秋頃が10個。通年手に入る7割は、見つけたときに嗅いでいただくとして、季節限定の34個について、時期の目安を下記にまとめましたので、ぜひ1年を通じて、香り探しを楽しんでいただけたらと思います。
【春に探したい香り】
柑橘の皮 ハッサクやブンタンなどの和柑橘の皮。ハッサクは2〜3月、ブンタンは1〜4月。
イチゴ 11月〜翌5月と出回る時期は長いが、最盛期は3月。
カシスの芽 3月下旬〜4月初めに青森市で(または『ワインの香り』カードC×カードIで)。
スミレ 花期は地域により異なり、3〜6月。植物園(『ワインの香り』P61)で。
アスパラガス 3〜6月が旬。茹でたホワイトアスパラガスとグリーンアスパラガスの香りの違いをぜひ。
カモミール 花期はジャーマン種が3〜5月、ローマン種が6〜8月。ハーブガーデンや花屋で。
ライチ 輸入生果は4月下旬〜8月上旬。流通量は多く無いが国産もある。
青草 青々とした春の若草を野原で。
オレンジの花、ミカンの花 ミカンの花の花期は5月頃。
スズラン 花期は5〜6月。花屋で鉢植えも出回る。
アカシア 花期は5〜6月。雑木林や公園、街路樹などで。
バラ、野バラ バラの香りとして最も代表的なダマスクローズの花期は5〜6月。野バラ(ノイバラ)も同じ頃。
アメリカンチェリー 主に輸入で5〜7月。
メロン 主に5〜8月
パッションフルーツ 国産品が2〜8月と時期は長いが、店頭で出会うのはかなり稀。
【夏に探したい香り】
マンゴー、パパイア マンゴーは輸入品が通年あるが、主に4〜8月、国産は4〜9月、パパイヤは通年。
アンズ 生果が出回るのは6〜7月。
サクランボ 主に6〜7月。
ブルーベリー 輸入は通年、国産は6〜8月。
モモ 主に6〜9月。
カシス 国産は7月中旬~8月上旬、基本的にジュースや酒、お菓子に加工される。
豆、茶豆 茹でたての茶豆の香り。だだちゃ豆は8〜9月。
スダチ、ライム スダチは8〜10月に路地もの。ライムは通年。
【秋に探したい香り】
マスカット マスカット・アレキサンドリアは5〜11月、シャインマスカットは8〜10月。
リンゴ、リンゴの蜜 主な収穫期は8〜11月。
焼リンゴ、リンゴのコンポート 主な収穫期は8〜11月。
洋ナシ 8月〜翌1月。ラ・フランスは10月末〜翌1月。
キンモクセイ 9〜10月。
オレンジ、ミカン オレンジは通年、早生温州が9〜11月、普通温州が11〜12月。
マツタケ 9〜11月。
落ち葉 10〜11月、落ち葉に覆われた場所を歩く。
ユズ、カボス ユズは主に10〜12月、カボスは主に8〜10月。
カリン カリンは11〜12月。マルメロは10月。東京・巣鴨駅近くにカリンの店がある。
このなかでも季節の花は、開花から花の終わりまでが短いので要注意です。また花は咲き始めが一番香ります。そのせいか、もしくは観賞用としての品種改良のためか、購入した切り花はあまり香りがしませんでした。本書には植物園の花期リストも掲載しましたので(『ワインの香り』P61)、ぜひ参考にして足を運んでみてください(※事前に植物園に開花をご確認ください)。
ところで、本に掲載した120の香りについて、撮影した物の産地が明らかに分かるものを集計すると、国産品と17カ国の国からの輸入品でした(といっても国産の加工品の原料は、輸入も多いと思われます)。アメリカのグレープフルーツ、スペインのオリーブ、トルコのローリエ、マダガスカルのバニラ......。私たちはワイングラスの中に、遠い国で生まれた香りのイメージを見つけているわけですね。
さて、皆さんはもうアロマホイールを見ながら、ワインを嗅ぐ体験はされたでしょうか? 出てくる言葉の数が格段に増えることを、実感されたのではないかと思います。さらに言葉を増やすには、実物を嗅いでみることが大切......ということで、皆さまぜひ、アロマホイールにある、まだ嗅いだことのない香りを探して、体験してみてください。『ワインの香り 日本のワインロマホイール&アロマカードで分かる!』
(東原和成 佐々木佳津子 渡辺直樹 鹿取みゆき 大越基裕 著)
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