最新記事:2015年05月20日更新
2015年05月20日更新
こんにちは。毎日、朝、昼、晩とチーズを欠かさないチーズラバーの佐藤優子です。「NPO法人チーズプロフェッショナル協会」で理事をしながら、日々チーズの普及活動にいそしんでいます。
チーズの魅力に取りつかれて頻繁に食べるようになったのは20年前。その頃、市場ではほとんど見かけなかった日本のナチュラルチーズですが、ここ10年来の進化は凄まじく、チーズラバーのみならず、食べることに敏感な人たちに大注目されています。そんな発展めざましい日本のナチュラルチーズについて、これから毎月紹介致します。
日本のチーズといえば、私たちにとって馴染みがあるのは、ポーションタイプ(小分け包装のタイプ)やスライスタイプの「プロセスチーズ」ですが、実は日本国民のチーズの消費量は1988(昭和63)年以降、「ナチュラルチーズ」のほうが多いって、ご存知でしたか?
そもそも、「ナチュラルチーズ」と「プロセスチーズ」の違いって何でしょうか?
チーズは、数千年もの歴史を持つ発酵食品です。ミルクを乳酸菌や酵素で固めて水分を抜き、保存性を高めた食品で、微生物や酵素がチーズの状態を日々変化させていきます。つまり熟成する食品です。日本では、このタイプのチーズを「ナチュラルチーズ」と呼んでいます(ちなみにチーズ製造が伝統的に行われてきた地域では、単に「チーズ」と呼ばれています。)
それに対して「プロセスチーズ」は、ナチュラルチーズを加熱して溶かし、乳化させて再び冷やし固め、日持ちを良くした、状態が変化しない加工品です。19世紀末にスイスで製法が開発され、20世紀にアメリカで実用化されました。日本でチーズが一般に普及したのは、戦後の学校給食からですので、馴染みのあるチーズといえば、アメリカから来た「プロセスチーズ」となるわけです。それ以来、日本で製造されてきたのはプロセスチーズが中心でした。大手乳業メーカーがこぞって製品を作り、多くの種類、量が流通してきました。
今でも日常の食卓、そしてスーパーや小売店の陳列棚で見かけるのは、圧倒的にプロセスチーズです。普通、チーズをそのまま食べる場合には、プロセスチーズを利用することが多いのですが、ナチュラルチーズは、パン、ケーキやスナック菓子に、はたまたレストランやファストフード店のグラタン、ピザ、ハンバーガーには欠かすことができない食材として、知らず知らずに私たちは口にしているのです。このような二次的な利用法の増加から、現在では「ナチュラルチーズ」の消費量のほうが「プロセスチーズ」のそれを上回っているわけです。
さて、そのナチュラルチーズのほとんどは、海外から輸入されています。
二次的な加工利用によって、たくさん消費されているナチュラルチーズは、大量生産で比較的価格が低いオーストラリアやニュージーランドなど、オセアニアからの輸入量が圧倒的です。
それに対して、チーズをそのまま、あるいはカットして、パンやワインなどと共に食べる「テーブルチーズ」とよばれているチーズは、フランスやイタリアなど、ヨーロッパ諸国から数多く輸入されています。1990年代頃からのワインブームに乗り、これらのテーブルチーズ用のナチュラルチーズの輸入も、加工用に負けず劣らずグンと増えました。
しかし日本国内でも、ここ数十年で小規模の生産者が増加して、現在、全国で200軒以上のチーズ工房が、テーブルチーズ用のナチュラルチーズを作っているのです。
小規模な生産者が多いということもあり、まだまだ生産量、発信力ともに足りていないので認知度は今ひとつなのですが、生産者の個性が光るチーズが数多く存在しています。まだ歴史も浅く、試行錯誤をしている生産者たちですが、ポリシーを持ち、日々研究を重ねている姿には心を動かされます。
日本人の味覚に合う味を求め、試行錯誤している生産者。
日本の四季をチーズで表現する生産者。
チーズの原料となるミルクにこだわり、ユニークな家畜の飼育方法を実践する生産者。
テロワールを表現すべく、土地の微生物による発酵を試みる生産者。
.........そんな魅力あふれる日本のナチュラルチーズ作りの現状と現場を、試食レポートとともにお伝えしていきます。
毎回の試食レポートは、チーズプロフェッショナルの資格認定を持ち、チーズの品質評価法の研修を共に重ねている吉安由里子さんと柴本幹也さんのご意見も合わせてお届けします。チーズを食べるプロの視点やチーズの楽しみ方なども、ぜひ参考にしてくださいね。
【テイスター Profile】※写真右から
吉安 由里子(よしやす・ゆりこ)
チーズプロフェッショナル。都内チーズショップ勤務。
ナチュラルチーズに出会ってその魅力に取りつかれ、食いしん坊かつ呑兵衛な会社員からチーズショップ店員に転職。ナチュラルチーズマニアが増えるのを心から願う毎日。近年目覚ましく美味しさを進化させている国産チーズにはまっている。
佐藤 優子(さとう・ゆうこ)
NPO法人チーズプロフェッショナル協会常務理事。
15年ほど前から、日本のナチュラルチーズ事情に興味を持ち、チーズ工房を訪ね、チーズを食べ続けてきた。日本のナチュラルチーズを応援する活動の一環としてチーズプロフェッショナル協会が行っている、日本のチーズの展示会やコンテストの企画運営に携わった経験から、さらに日本のナチュラルチーズとそのチーズを作る人たちに魅了されている。
Made in Japanのすばらしい乳製品を、もっと知ってもらいたい! という意気込みでこの連載をスタートした。
柴本 幹也 (しばもと・みきや)
「日本チーズと日本ワインのお店 Bar湘南ファーム」代表。
チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナル/チーズ検定講師。日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー。農場を訪れた時のように、食と農の繋がりを感じることが出来る日本チーズ専門店や、チーズイベントなどを通じて、日本のナチュラルチーズを伝えるべく活動中。休日は家族と過ごしたい2男児の父。