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第4回【「疲れない」がキーワード】

2014年12月05日更新

目指す料理に合うお酒として、日本ワインを選ぶ料理人もいる。
東京・麹町にある「春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)」の大塚将央さんはその一人。
料理の先に見えた、日本ワインの魅力について聞きました。

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nwine04_001.jpgオフィスビルが立ち並ぶ東京・麹町。
煉瓦建ての趣あるビルに「春風駘蕩」の小さな看板を発見した。
ワインの絵は描いてあるけれど、どんな店だろう? 想像を掻き立てられ階段を登り、扉を開けると、温かな空間に店主の大塚将央さん、サービスを担当する妻・あゆみさんの笑顔が見えた。初めて入ったのに緊張しない店、穏やかな気持ちでくつろげる店というのが第一印象だ。

メニューのはじめには、店のコンセプトを示す、こんな一言が書かれている。
「飲み疲れない、食べ疲れないほっとする味わい」
nwine04_02.jpg店主の大塚将央さんは、フランス、イタリア、スペイン料理の店で修業を重ねてきた。が、この店では、国をあえて限定しない"欧風料理"を作っている。
「料理やワインの味はもちろん重要ですが、目指すのは "居心地のいい店"です。ワインのセレクトや料理は、妻のサービスやカトラリーのセレクト、内装と同じく、居心地のいい空間づくりのためのツールとして捉えています」
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料理ジャンルを限定しないとはいえ、一番影響を受けているのはスペイン・バスク料理、と大塚さん。特に、食べ歩きに行ったバスク地方のバル「ラ・クチャラ・デ・サン・テルモ(La Cuchara de San Telmo)」には大いに刺激を受けた。このバルはレストラン料理を小皿(タパ)にしたスタイル。生ハムやアヒージョだけでないタパに、自分の行くべき方向性を見つけた。
「"スペインバル"と限定せずにはいたいんです。当時、修業していた東京・神楽坂の『エル・カミーノ』のオーナーは『自分の好きなものを全面に出せば、それがバルだ』とおっしゃっていて、僕はそのやり方で行こうと。バスクで出会ったバルで、それができると確信しました」

nwine04_03capneww.jpg料理は、極力シンプルな調理法で作る、素材を生かしたもの。

「独立するまでは、作り込む料理ばかり作っていたんです。塩加減にしても、(塩辛い手前の)ギリギリの加減がおいしいと教わってきました。それは確かにおいしいのですが、個人的にはそれだと食べ疲れてしまうという思いもあったんです。今は塩、香辛料、ハーブ、ニンニクの量を控えめにしていますね。いかに余計な手数をかけず、シンプルに調理しておいしくするかを意識しています」

そうした料理に合わせるワインを考えた時に、行き着いたのが日本ワインだったという。
「僕は料理人なんで、ワインに合わせて料理を考えるよりは、料理ありきでワイン選びをしています。その中で、個性はおとなしいものの、体になじむ日本ワインがベストだろうという選択をしました」

nwine04_04.jpg日本ワインを選んだのは、飲み疲れない味で、自分の料理
に合うと思ったから。その他に、イタリアでの修業経験も、日本ワインに興味を開かせたきっかけとなったという。
「イタリアのウンブリアに1年半ほど修業に行っていたことがあるんです。ウンブリアといえばサグランティーノ種のワインを飲んでいる。フィレンツェに行けばトスカーナのワインが出てくる。その土地に根付いたお酒と食材を合わせるのが"普通"なんですよね。そうした郷土意識がすごくいいなと思いまして。ですから独立しようと思ったとき、西洋料理をしたい、合わせる酒はワインだとなった時に、自然に『ここは日本だから、だったら日本ワインだな』と思いました」

「料理とワインが、互いに寄り添うくらいの関係がいいですね。こちらからもご提案はしますが、お客様が自分でいい相性を発見することが楽しさにつながる、という気持ちもあります」


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大塚さんは、2008年にブラインドで「グレイス甲州シュルリー」を飲み、日本ワインの魅力を知った。 「僕の実家は千葉ですが、近くに『いまでや』という酒屋さんがあるんです。実家に帰った時、そこで日本ワインをまとめて買って、一人で地味に飲んでいました(笑)。飲むうちに『いけるなあ』と。最初はベリーAの味があまり好きではなかったのですが、飲み続けていると、『いや、おいしいぞ』と思うようになってきて。合わせる料理も見えてきました」
nwine04_05cap.jpg今は約20ワイナリー、80種類程度の日本ワインを揃える。
「白は品種問わず、赤は酸があるワインを多く揃えています。クリアで綺麗な味わいの長野産、特徴的な酸を持つ北海道が多いかもしれません」

日本ワインの魅力は「距離感」にもある、と大塚さん。
「日本ワインの良さは、産地に行こうと思えば行けること。生産者さんにも会えるし、言葉の問題もない。造り手の話を聞き、ワインに込めた思いを知ることができるのも嬉しいですね」
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nwine04_06.jpg春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)
東京都千代田区麹町3-12-9 キャナル麹町2F
tel 03-3263-1816
東京メトロ有楽町線「麹町」駅より徒歩3分
http://r.goope.jp/shunpu-taitou
席数/カウンター4席、テーブル10席
営/月〜金18:00〜24:30(料理23:00L.O. ドリンク23:30L.O.)、土18:00〜23:00(22:00L.O.) 休/日・祝・第2土
禁煙
予算/4500円〜6000円 ワイン:グラス680〜980円、ボトル 3000円〜

comment.jpg推薦者 フード&ワインジャーナリスト 鹿取 みゆきさん
進化を続けるお料理にいつも驚かされる春風駘蕩。さまざまな日本ワインを1本1本丁寧に伝える、サービスの大塚あゆみさんの接客もじつに居心地がいい。カウンターでシェフ、マサオウさんやあゆみさんと話をするのもよし。気のおけない仲間たちとテーブル席に座るのもよし。鮪とアボカドのサラダは必食です。

<鹿取みゆきさんProfile>
フード&ワインジャーナリスト。総説論文「日本におけるワインテイスティングについて」が日本味と匂学会誌Article of the Year 2009賞を受賞。東京大学空間情報科学研究センター協力研究員。

<鹿取みゆきさんの著書、監修した本>

  • 『日本ワインガイド 純国産ワイナリーと造り手たち』(鹿取みゆき・著/虹有社)
  • 『においと味わいの不思議 〜知ればもっとワインがおいしくなる〜』
    (東原和成、佐々木佳津子、伏木亨、鹿取みゆき・著/虹有社)
  • 『日本ワインと和つまみ』(岩倉久恵・著、鹿取みゆき・ワイン監修/柴田書店)

    ※日本ワインのことがわかる「日本ワインガイドfacebookページ」はこちら

    第4回【春風駘蕩】撮影:牧田健太郎

    ※第5回の更新は2月5日(木)です。お楽しみに!


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