最新記事:2014年09月05日更新
2014年09月05日更新
ひとりで楽しみたい夜には、この店はいかがでしょう。
場所は酒場やワインバーが軒を連ねる西荻窪。
週末は赤、白のグラスワインが各10種類開くなど、グラスで楽しめるのが特徴です。
手に入りにくいワインが飲めることも。
6席あるカウンターは特等席。
堅苦しいこと抜きに楽しめる、普段使いできる1軒です。
JR中央線の西荻窪駅で降り、南へ伸びる道を行くと、数々の名ワインバーに出会う。2011年にオープンし、2014年にこの道沿いに移転した「醸造酒家KURA」もその1軒だ。
お店は、1人か2人でふらりと寄りたくなる小体さ。入口に並ぶボトルの種類や親しみやすいファサードから、この店の良さがにじみ出ている。
バーカウンターの向こうで迎えてくれたのは、店主の野田語(のだ・かたる)さん。元バーテンダーならではの優雅なサービスと気さくな人柄が人気で、近隣の住民はもとより、夜が深くなると同業者も数多く訪れる。
ストックしている日本ワインのワイナリー数は、130とも140とも。「最近は数えるのを諦めてしまいました」と笑う。
特徴はグラスワインの種類の多さ。平日でも10種類以上が揃い、週末になると赤白各10種類が開くことも。価格も1杯700円〜1000円と良心的だ。
グラスワインを充実させるスタイルにしたのは、「少しでも多くの種類の日本ワインを飲んでほしい」という"普及魂"から。
「グラスワインの価格は、ボトルの価格を均等に割ったもの。だからボトルは、ほとんど出ません。僕も『グラスでいろいろ飲んだほうが楽しいですよ』と薦めることが多いですね」と野田さん。グラスの銘柄も固定せず、その日の天候や訪れるお客さんの好みをみながらボトルを選んでいく。
提供しているワインの造り手とは、東京で会って話をしたり、現地に赴き実際に畑やワイナリーを見たりして交流している。
「お客さんには、ワインに感じる味や香りはもちろん、生産者の思い、栽培や醸造のアプローチについて、話すことが多いですね。僕が行ったことのあるワイナリーに関しては、風土や気候などについても。ここで初めて日本ワインを飲んだという人も多くいますが、嬉しいことに、それがきっかけでワイナリーに行くなど、日本ワインに興味を持ったという人も増えてきました」
料理は日替わり。毎日、品書きを書き替える。
「僕は料理人ではないので、旬の食材を生かすこと、単純にワインに合わせやすいものを選んでいます」と野田さん。
今、西荻窪のレストラン仲間と協力して力を入れていることは、ブドウ産地の食材を使った一皿だ。例えば長野県産のワインに合わせたくなる、長野県産のナスのお焼きや蕎麦がき、信州サーモンや馬肉など。北の白ワインが欲しくなる、北海道産アスパラガスやジャガイモ、サンマやサケなど......。産地の風土をより感じられるようにという、料理からのアプローチだ。
1人で訪れても飽きのこないようなポーション、盛り合わせを充実させたメニューには、自由にワインを楽しんでもらいたいという細やかな気遣いが感じられる。日替わりメニューの中で、唯一の定番がこちら。赤ピーマンのムース、鶏レバーのパテ、甘納豆マスカルポーネとバゲットの盛り合わせ。さまざまな食材をワインと合わせて、自分なりに好みの組み合わせを見つけられるという楽しさがある一皿だ。
生クリームが底上げする赤ピーマンの甘み、くせのないレバーはもちろん、甘納豆とマスカルポーネチーズの相性にも驚きが。この組み合わせは、修業時代にバーテンダーの先輩から教えてもらったものだという。
「修業したのは、バーの中でも比較的ちゃんとしたキッチンが備わっているところで、料理はそこで学びました。和と洋の食材を合わせるコツなど、先輩から教えてもらったことが生きています」
北海道産のホワイトアスパラガスに、緑のアスパラガスで作ったピュレをかけた一品。塩とコショウのシンプルな味つけで、野菜の力強い味わいを引き出している。アスパラガスが採れるシーズン限定。
KURAには北海道のワインも充実。「ナカザワヴィンヤード、農楽蔵、ドメーヌタカヒコ、山﨑ワイナリー、KONDOヴィンヤード、10R(トアール)ワイナリーなど、新しいワイナリーに注目しています」と野田さん。産地を合わせて飲んでみるのもおもしろい。野田さんと日本ワインとの出合いは8年前にさかのぼる。
「僕は街場のバーの出身です。ですが、勤めていたバーのオーナーがホテル出身だったので、ワインの知識の深い、ホテルのバーテンダーの先輩たちに恵まれました。
僕が25歳の頃、ある先輩が20種類のワインをブラインドで飲むワイン会を開いてくれたんです。銘柄を当てるのではなく、先入観なく自分の好みを探るという会だったのですが、その20本のうち『おいしい』と感じた1本、漠然と可能性を感じたのが、小布施ワイナリーのワインでした」
そこから少しずつ、酒屋で見つけては飲み、気になるワイナリーには足を運ぶことで、日本ワインのコレクションを増やしていったという野田さん。独立が視野に入ったとき、「思い切って好きなものを紹介する店を作ろう」と日本ワインに特化したワインバーを作ったと振り返る。
開店して2年9カ月が過ぎ、ワインの種類も増えている。ただ、今も転機となった小布施ワイナリーのワインは、野田さんのなかで別格だ。カウンターに登場する機会も多い。
醸造酒家KURA(くら)
東京都杉並区西荻南2-24-7 YT西荻窪1F
tel 03-3331-3356
JR「西荻窪」駅南口より徒歩2分
営/18時〜翌2時(日・祝は18時〜24時) 休/不定休
Facebookページはこちらから
席数/カウンター6席、テーブル10席
開店〜23時まで禁煙
予算/3000円〜、ワイン:グラス700〜800円推薦者 フード&ワインジャーナリスト 鹿取 みゆきさん
ワインリストは種類が多ければいいというものではない。KURAのワインリストは確かに種類も多いが、野田さん自身の目で選んだことが伝わってくる。ボトルをながめているだけで、そそられるような品揃え。そして、お店の醸し出す雰囲気がなんとも居心地がいい。料理は味付けのツボがおさえられており、それぞれの皿に主張が感じられる。
<鹿取みゆきさんProfile>
フード&ワインジャーナリスト。総説論文「日本におけるワインテイスティングについて」が日本味と匂学会誌Article of the Year 2009賞を受賞。東京大学空間情報科学研究センター協力研究員。
<鹿取みゆきさんの著書、監修した本>