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第7回【主張しない、というバランス】

2015年04月05日更新

料理にも、ワインにも、作り手の個性が出るとは、よく言われること。
個性は楽しい。
でも、強い個性が続くと疲れることもある。
そんな夜を、優しく受けて止めてくれる
神楽坂「日仏バル レベル」の絶妙なサービスと料理の話。

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jwine07_05d.jpg東京・神楽坂の毘沙門天近くに、「本多横丁」という道がある。
飲食店が軒を並べるこの通り。
日本家屋が現役だったり、脇道には石畳が敷かれた小道が続いていたりと昔の情緒を残しながら、フランス料理店も多くあり、どことなく異国の雰囲気も感じられる。 今と昔が交じり合っているような、不思議な一角。
そんな道沿いに佇むのが、今回紹介する「日仏バル レベル」だ。

看板どおり、日本とフランスが、見事に半分ずつ共存する店だ。
料理のメニューを開くと、白和えや〆鯖、湯葉あんかけなどの日本料理と、パテ・ド・カンパーニュやステックフリットといったフランス料理が並記されている。
ワインのリストは、グラスでフランス産6種類に日本産6種類。ボトルの種類も日仏きっちり半分ずつある。選択肢の広さが、あれこれ選ぶ楽しみを増やしてくれる。

jwine07_06.jpgお店を開いたのは2013年。開店して1年と4カ月が経った。
「最初から料理とワインは日仏で行こうと思っていたんです。両方を並べることで選びやすいかなと思って」と言うのは、サービスの大久保修平さん。
「日仏のどちらかに偏ることなく、中立であることは常に意識しています。自分たちの店はバランスが肝になっていて、それがお客様にとっての気楽さにもつながっているのかもしれません」

レベルは、大久保さんとシェフの白神(しらが)美紀さんの二人で切り盛りしている。ちなみに初めて来るお客さんは、二人を見て「夫婦?」などと聞くそうだが、そうではない。二人は前の職場の仲間で、白神さんの料理、大久保さんのサービスを見て、互いが「独立するならこの人と」と手を組んだ、最強の同志なのだ。
「あまりにも(関係を)聞かれるものだから『実は姉弟です』って冗談で答えたら、『やっぱり!』って多くのお客様に言われて逆に驚いています」と白神さん。でも、この二人、なんだか醸し出す雰囲気が似ているのだ。多分事情を知らなかったら、私も「そうだと思った!」と答えただろう。
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jwine07_02b.jpg茶道で茶懐石を手伝ったことが料理人のスタートになったという白神さん。だしの澄んだ味わい、素材の味を生かす調味料使いは、そのキャリアを静かに語る。一方で、前職で培ったフランス料理の調理法は、日本料理と混ぜることなく「フランス流」を意識しているという。しかし、その料理も、繊細で優しく、穏やかな味わいだ。

「うちは"非日常"で使うお店ではないです。でも、日常でもない。僕は"超"日常なんじゃないかって思っています。 そもそもシェフの料理ありきで僕はやらせてもらっていると思っていて、出している料理はプロの腕でないとできないものだ、という自負はあります。"日常"を超えるクオリティを出しながらも、お客様には気付かれないように、控えめを心がけているんです。気付かないけれど、心にはしみているというのが理想」

そんな大久保さんの言葉を聞いて、腑に落ちたことがある。 レベルの料理は「何を食べた」という具体的な記憶よりも、「なんだかおいしかったなあ」という印象が強いのだ。食べ疲れないけれど、家庭の味でもない。刺激ではなく癒しを得ているような気持ちになる。

「それ、すごく嬉しいです。少し前に、日本ワインの造り手も同じようなことを言っていました。『自分のワインは、お客さんが店を出たときに、おいしかったね、いいお店だったね、でも最後の料理に合わせたワインは何だったっけ? と、忘れられるくらいが理想です』って。目からウロコでした。僕らも同じで、ゆるやかな時間を過ごせて『いい1日だったな』と思いながら眠りにつけるようなお店でありたい。そんな力が、シェフの料理にはあると思っています」

気楽さというカテゴリーで評価される店がある。気合いを入れて頑張って行く店ではなく、「つい行ってしまう」という店。実はそんな店づくりが難しい。そして、これこそが「レベル」の希有さかもしれない。

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大久保さんが日本ワインを意識し始めたのは、5年ほど前に遡る。
「最初は丸藤葡萄酒工業の甲州シュール・リー。前職で板橋区の系列店に勤めていたときで、お店で少しずつ日本ワインを取り扱い始めた頃だったんです。
それまではイタリア料理がメインのお店だったこともあり、イタリアのワインと、フランスのスタンダードなワインが自分の好みでした。それらに比べると、日本ワインは衝撃的な出会いでしたね。飲み口がすっきりしていて、うまみがしっかり出ていて......。まだそこまで経験がないながらも『日本らしさ』を強く感じました」
山梨のワイナリーを中心に訪れ、畑を見て、造り手と話をして、東京に帰ってまた同じワインを飲む。そのサイクルが楽しかったと振り返る。小さな積み重ねで造り手との関係を着実に育んでいった。
jwine07_04c.jpgワインリストには、希少といわれる日本ワインも増えているが、大久保さんはそうしたワインこそ、あえてグラスで提供する。
「多くの人に飲んでもらうことは常に心がけています。さまざまな事情で数を増やせない生産者さんのものも、お客さん同士でボトルシェアする気持ちで、気軽に飲んでいただければ」と大久保さん。 「いずれ日本ワインがほかの国々のワインと同じように選択肢の一つとなって、『今日飲むのは日本ワイン"でも"いいね』という会話が聞けるような段階まで定着するといいですね。僕たちも、この店を通してまだまだできることがあるんじゃないかと思っています」

DATA.jpg
jwine07_07.jpg日仏バル レベル
東京都新宿区神楽坂4-3 TKビル1F
tel03-6280-8220
JR線、東京メトロ「飯田橋」駅から徒歩5分、都営大江戸線「牛込神楽坂」駅から徒歩5分
席数/18席(テーブル12席、カウンター6席)
営/18:00〜24:00
休/不定休
予算/6000円〜7000円 ワイン:グラス600円〜、ボトル3480円〜

日本ワインの詳しい情報、最新のトピックスなどは、日本ワインガイドFacebookページをチェック!

第6回【日仏バル レベル】撮影:牧田健太郎

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