特別企画

『はじめてのワイン法』OIV賞受賞記念 蛯原健介先生インタビュー

2016年08月18日 |

2016年の七夕の日に、うれしいニュースが飛び込んできました。

明治学院大学法学部蛯原健介教授の著書『はじめてのワイン法』が、ワイン界で最も権威ある「OIV賞」を受賞したのです。授賞式は2016年10月にパリで行われます。
受賞を記念して、賞について、OIVについて、蛯原先生にお話をうかがいました。

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受賞のコメント

「毎年、世界中で数多くの図書が出版されておりますが、日本語で書かれたワイン法の図書が受賞したことに驚くとともに、大変光栄に思っております。現在、OIVには45カ国が加盟し、世界のワイン生産量の85%はOIV加盟国で生産されたものです。OIVの策定した基準はグローバル・スタンダードとなっており、非加盟国も無視できないものとなっています。日本ワインの輸出に際して、甲州やマスカット・ベーリーAのOIVでの品種登録が必要となったことがその一例です。日本はワインの主要な消費国であり、生産国でもありますが、未だOIVに加盟するには至っていません。しかしながら、日本のワイン産業の振興や品質向上のためにも、また日本がワイン生産国であることを対外的にアピールするためにも、OIVへの加盟は必須であると考えています。今後は受賞者のひとりとして、各方面にOIV加盟の意義を伝えていきたいと思っております」

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日本ワインの法的規制は、今どうなっていますか?


2015年10月に、国が定める日本ではじめてのワインのラベル表示ルールである「果実酒等の製法品質表示基準」が定められました(適用開始は2018年10月30日)。この本を書いたときは2014年ですから、この表示基準ができる前の段階で、いろいろな課題があるということを指摘したいと考えていました。多くの生産国では、少なくとも表示のルールはしっかりしているし、日本のように、ワインの表示に関して自主基準(「国産ワインの表示に関する基準」1986年)に全部任せているというのはどうなのかな、というのがもともとの問題意識でした。それは今回の表示基準ができて、ひとつ達成できたのかなというふうには思っています。今回の告示には、本書が少なからぬ影響を与えたのではないかという話も耳に致しました。ただし基準の中身については、実際の運用面でどうなっていくのかなと、いろいろと思うところもあります。


法律面から見た、日本ワインの今後の課題とは?


今回決まったのは表示の基準であって、ワインの中身の基準ではありません。もちろんワインはラベルを信じて買うものですから、ラベルの表示がしっかりしたのはよいとは思うのですが、品質の向上も含めて、ワインの中身をいかに世界水準に近いものにしていくかが大切で、そのためには中身についての基準も作っていく必要があると思っています。


それから「地理的表示」も重要です。今は日本のワインについては「山梨」だけが指定されていますが(2013年に指定)、日本にワイン産地が形成されていくなかで、産地の評価が固まったものについては、この地理的表示制度を使って、産地ブランドを確立して、保護していくことが大事だと思っています。

また現在、年間10軒、20軒と、新しいワイナリーがどんどん出来ていくなかで、品質面で懸念があるワインがあるのも事実です。ですからワイン造りをする際に、表示についても、中身についても、これだけは最低限尊重してくださいというようなルールを、今のうちに作っておくほうがよいだろうと思います。

そして日本ワインがこれだけ盛り上がっているなかで、対外的に日本がワインの生産国であることを世界にアピールするためにも、OIV加盟というのは避けては通れないだろうと思います。今回の表示基準についても、しきりに「国際基準」、「グローバル・スタンダード」と言われていたので、こうした国際機関に加盟して、あるいはコンタクトを密にしていくことが必要だろうと思っています。今回の受賞がそのひとつの要因になったらいいなと思いますし、OIVの賞に選ばれたということは、OIVの活動を日本の方に伝えていくことがひとつのミッションとしてあるのかなと思っています。


OIVに加盟するメリットとは何でしょうか?


ひとつは、世界の最新の情報が入ってくることです。EUのワインの基準というのはOIVの基準を入れている部分も多いですから、例えば、こういった添加物が認められるようになったとか、そういった最新の情報を手に入れることができます。ふたつめは、日本の正確なデータ、情報を世界に向けて発信することもできること、あとはOIVがいろいろな基準を作る際に、日本の意見を反映させることができることが利点だと思います。

またOIVでは年に1回、総会が開かれていまして、今年はオリンピック同様、ブラジルが開催国です(2016年10月に開催予定)。総会の開催国になると、世界中の加盟国の人たちがやってきますから、自国のワインを宣伝する非常にいい機会になるのです。会議は1週間開かれ、中1日、国内のワイナリーに連れて行く機会もあります。日本が総会の開催国になれば、一気に世界的に日本ワインが知られるようになるのではないかと思っています。


加盟するための条件はあるのですか?


とくにありません。例えば、ワイナリーがほとんどない国であっても加盟国になって、消費国側からの意見を発言しています。生産国だけの立場で基準を作られては困ることもありますから、消費国の意見も反映させているのです。

日本のワイナリーの方も、ぜひ外に目を向けて欲しいなと思います。もちろん生産者の方のなかには、一生懸命外国のワインを飲んで勉強をしている方もいらっしゃいますが、いろいろなワインが世界中にあるなかで、自分たちの位置を見て、絶えず考えながら、ワイン造りに取り組んでほしいという思いがありますね。



『はじめてのワイン法』は、
明治学院大学の教科書にも採用されています。


本書ではOIVについてはもちろん、ワイン法の成り立ちやヨーロッパのワイン法、日本の法規制について、ワイン法の研究者である蛯原健介教授が分かりやすく解説しています。ワイン法が分かると、ワインがもっと分かります。ぜひ一度、手にとってご覧ください。(詳細はこちら

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