最新記事:2014年08月18日更新
2014年08月18日更新
ワインは好きだけど、日本のものは飲んだことがない?
今回紹介するのは、"日本ワインデビュー"するのにおすすめしたい1軒。
日本ワインについての情熱や知識をもっていながら、ビギナーも入りやすい開放感があり1杯からでも楽しめる使い勝手のよさと、ボトルで新しい出会いもできる奥深さを合わせた店。上質な食材を生かした、ワインに合う料理も揃っている。
1回目の今回は、日本ワインの造り手もしばしば訪れるという、このお店です。
2006年に渋谷「bongout noh(ボングーノウ)」、2007年に目黒「kitchen cero(キッチン セロ)」など、日本ワインを豊富に揃えたレストランやバル形態の店舗を次々と開業してきた東井隆さんと岩倉久恵さんコンビ。日本ワイン人気の黎明期から造り手たちを支えてきた2人が、2012年「café bleu(カフェ ブリュ)」をオープンした。
選んでいるのは、朝から飲んでも疲れない、無理な抽出のない優しい味わいの日本ワイン。
「マニア受けするワインだけでなく、日常に寄り添うものも揃えています。私の感じる日本ワインの魅力は『だし』感。優しくて、しみじみおいしいと思えるものが多いですね。それに合わせて、料理はフレンチやイタリアンや和食というようなジャンルにこだわらず、食材の良さをシンプルに生かしたものにしています」と岩倉さん。
グラスワインには、赤・白各2種類の日本ワインがリストオン。1杯500円の一升瓶ワインもある。ボトルワインのリストはあえて作らず、岩倉さんやスタッフがお客さんとの会話から数本のボトルを提案してくれる。フランスやドイツなど世界のワインも揃うので、日本ワインを飲みたいときはボトル注文の際にその旨を伝えてほしい。好みや気分を伝える中で提案された1本は、まさに期待した通りの、いや期待を嬉しく裏切る味わいなはずだ。
繊細な味わいの日本ワインに寄り添うように、料理は日本各地から食材を厳選し、あえてイタリアンやフレンチといった"国境"を越えたボーダレスな品が提供される。ここはおいしいもの好きのための空間。大人が自由に楽しむための上質なカフェだ。
濃厚な肉質と良質な脂肪が特徴の、中ヨークシャー種を改良して作られた長野県産「千代幻豚(ちよげんとん)」。カフェ ブリュでは半頭買いをし、サルシッチャなど加工品も作る。腕肉や背脂をミンチにしてソーセージにし、5〜6日干して熟成。濃厚な豚肉が熟成され、スパイスと混じり凝縮感のある味わいだ。
合わせたいのは厚みのある白ワイン。北海道、ナカザワヴィンヤードのクリサワブランだ。「クリサワブランは人に衝撃と感動を与える日本ワインのひとつ」と岩倉さん。ライチや白桃、ハーブを思わせる香りなど、香りの豊かさと複雑みが印象的。うまみがありつつ優しい、上品でありながら強さもある1本。
小野食品は埼玉県川越にある豆腐店。油揚げは、太白ゴマ油100%で揚げたもの。「油も
軽く、甘みもある油揚げです。それでピザを作ったら面白いかなと、油揚げを生地にし、長野の麹味噌、唐辛子味噌の『とっから』を塗り、タマネギとチーズをのせて焼き、最後にハチミツをかけました。甘辛のコントラストと発酵した味噌のうまみが楽しめるつまみです」。
合わせるワインはタケダワイナリーの「ドメイヌ・タケダ ベリーA 古木」。ベリーAがもつふくよかな果実味と、古木ならではのエレガントな酸味が特徴。「それがピリ辛の味噌ときれいに合って、口の中にうまみが広がります」(岩倉さん)。
カフェ ブリュの女将、岩倉久恵さんのことを、日本ワインの造り手で知らない人はいない。今や造り手みなの姐御的存在の彼女は、どのようにして日本ワインを知っていったのだろう?
「初めて日本ワインを買って飲んだのは、居酒屋でアルバイトをしていた大学4年生のとき。ドメイヌ・タケダの『キュベ・ヨシコ』でした。当時で8000円くらいだったかな、それを2本買って。まだワインが安く、ラトゥールも1万円以下で買えた時代。世界的に見ても高価なワインだったと思う。でもね、そのときは自分が若くて、8000円のおいしさがよく分からなかったな(笑)。」
岩倉さんの日本ワインを中心にした店作りは「ボングーノウ」から始まった。
「1軒目に立ち上げた立ち飲み酒場『buchi』から、日本ワインは少しずつ入れていたんです。衝撃を受けた1本は、長野県のワイナリー・あづみアップルの『ソーヴィニヨン・ブラン2002』。酒屋さんの片隅に残っていた1本でした。飲むとソーヴィニヨン・ブランの特徴がきれいに出ていて『こんなワインが日本にあるんだ!』って感激。すぐにワイナリーにアポイントをとって、翌週には畑に行きました。その後、二期倶楽部(東京・広尾)で開催された日本ワインの会などで、城戸亜紀人さん(kidoワイナリー・長野)や岡本英史さん(ラトリエ ド ボー ペイサージュ・山梨)など、日本にも凄い造り手が育っていることを知りました。」
ボングーノウを開いた当時は、日本ワインを飲める店が少なかったため、岩倉さんはより多くの人に味を知ってもらうためにグラスワインの種類を増やしたという。今やカリスマ的人気を誇るボー ペイサージュも破格の値付けに。「飲んでもらえば気に入ってもらえる自信がありました。日本ワインに関しては、どこよりも安く飲める店だったと思います」。造り手を招いたイベントも積極的に開催。初めて日本ワインの造り手に会ったのはボングーノウで、という人も多いだろう。
約10年が経った今、日本ワインを取り巻く状況は変わった。岩倉さんたちが経営する店では適正価格で日本ワインを提供できるようになったし、何よりワイン自体に幅が広がった。甲州種だけでもさまざまな味わいがあり、ピノ・ノワールだって10人の造り手のワインを飲み比べるなんてこともできる。「飲み手もマニアだけでなく、普通に楽しんでいる人もいるのが嬉しい」と岩倉さん。「造り手も飲み手も成熟してきたからこそ、カフェ ブリュでより自由なサービスに挑戦できているの」と、爽やかに笑った。
カフェ ブリュ CAFÉ BLEU
東京都渋谷区円山町23-9 平井ビル1F
tel 03-5428-3472
京王井の頭線「神泉」駅より徒歩3分
営/10時〜24時(日・祝は12時〜24時) 休/無休
http://www.to-vi.jp/bleu/
席数/カウンター11席、テーブル22席
一部喫煙可
予算/料理:4000円〜5000円、ワイン:グラス500〜1200円、ボトル3500円〜
推薦者 フード&ワインジャーナリスト 鹿取 みゆきさん
ワイン生産者のみならず、食材の生産者への真摯なまなざしが感じられる料理の数々。ここに来たら、「千代幻豚のパクチー風味のホルモン炒め」と「プーアールくるみ」ははずせない。今までなかなか手に入らず、飲みたくても飲めなかった日本ワインがあれば、女将の岩倉さんにぜひ相談を。冬は裏メニューの鍋料理がおすすめ。
<鹿取みゆきさんProfile>
フード&ワインジャーナリスト。総説論文「日本におけるワインテイスティングについて」が日本味と匂学会誌Article of the Year 2009賞を受賞。東京大学空間情報科学研究センター協力研究員。
<鹿取みゆきさんの著書、監修した本>
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